男組 漫画(1)

「男組」は1974年から1979年に渡って少年サンデーに連載されました。米国の大学紛争,中国の文化大革命に触発された日本の学園紛争はすでに終息していました。しかし,一過性の現象とはいえ,権力に対峙しようととした学生たちの行動はまだ人々のこころに共感として残っていた時代ということになります。

国家権力を背後から操り,マスコミも手が出せない「影の総理」と呼ばれる人物に高校生や少年刑務所の受刑者が戦いを挑むという荒唐無稽な物語の設定はある意味では時代が後押ししたものともいえます。

この物語では流全次郎,神竜剛次,影の総理に代表される三つの勢力の闘いが描かれています。彼らの社会に対する発言を列挙してみるとそれぞれの考え方が分かります。

神竜剛次
生徒たちを見ろ!やつらはブタだっ!,ブタどもには秩序を与える主人が必要だ!,汚された世界におれは新しい秩序をうちたてるのだっ!
影の総理は私欲をみたすために権力を行使する。だが,おれには理想社会を実現するために権力が必要なのだ。

流全次郎
豚は自分が豚であることに気がつかない! ,人間は自分が人間であることを知ることができる! ,知ろうと努力することもできる! ,だから人間は希望を抱くことができるんだ!!
人間はいつか平等で平和な社会を作ることができるという希望だ! ,だれが支配することもなく支配されることもなく争うこともない,自由な社会を作ることができるという希望だ…

影の総理
理想などというものが一番いかん。大衆はブタのままでよい。ドブ泥のような社会に放し飼いにしておいて,エサにつられてどんなことでもきくようにしておくことが権力を保つコツだ。
試験で100点をとる男は有能で役にたつ。しかし,200点以上とるような男は優れすぎていて危険だ。

神竜剛次のキャラクター設定をもう一工夫すればこの物語は二つの理想の対決というテーマを消化できたのではと思います。

それがあれば,流と神竜の最後の対決のあとに神竜が語った「流・・・おれとおまえは同じカードの裏表だったのかもしれんな・・・おまえは光をみつづけ,おれは闇をみつづけた。闇とは人間に対する絶望であり,光とは人間に対する希望だ。どこまでも人間に対する希望を失わぬおまえのその強さがおれを圧倒したのかもしれぬ」という言葉が生きてきます。