レイプ告発の伊藤詩織さんは今 バッシング止まず渡英(1)

性被害を告発する#MeTooは、社会にどのような影響を与えたのでしょう。自らのレイプ被害を訴え、日本における#MeTooのきっかけをつくったジャーナリスト伊藤詩織さんに聞きました。
――日本で暮らすことが難しくなり、いまはイギリスに。渡英のきっかけは。
昨年5月に記者会見を開き、元TBS記者から受けたレイプ被害を告発しました。真実を伝える仕事をしたいと思っていたにもかかわらず、自分が遭った出来事をなかったことにしたら、また自分や他の人に起こるかもしれない。そんな状態では生きていけないと思ったんです。性暴力について話せる環境を少しでも社会の中につくりたかった。
しかし会見後は様々な波風が立ちました。オンラインで批判や脅迫にさらされ、身の危険を感じました。外に出るのも怖かったです。以前から「相手を告発すれば日本で仕事ができなくなる」と言われていたので覚悟はしていましたが、想像以上で、日本で暮らすのが難しくなってしまいました。そんなとき、ロンドンの女性人権団体から「安全なところに身を置いたら」と連絡をいただいた。去年の7月からロンドンで暮らしています。
――ご自身の経験や被害者をとりまく法律や支援体制の問題を書いた「Black Box」(文芸春秋)を、昨年10月に出版しました。
当時を思い返すのもつらかったので、書くのであれば、数年たってからと思っていました。でも、編集者の方が「いまが、伊藤さんの声で語るときなのでは」と言ってくださって、執筆を決意しました。
ドキュメンタリーをつくる仕事もしているので、映像で伝えることも考えました。家族や近い人に起こったらどうなるだろう、当事者の気持ちになれるような、語りかけるような作品をつくりたかった。でも、(性犯罪を厳罰化する)刑法改正案が昨年6月に成立し、施行3年後の見直しもあると考えたとき、いま話さなければと。長編のドキュメンタリーをつくっていたら刑法の見直しに間に合わないと思いました。
最初は、表紙に自分の顔が載ることに抵抗がありました。というのは、「伊藤詩織」という人間に起きたこと、異質なこととして距離を置かれてしまうのがいやだったからです。「強い女性」とか「勇気ある女性」と言われますが、本当はへなちょこです。期待されているような、そんなんじゃないです。